ウイルス対策のために殺菌灯(UV-C)はどのくらい照射すれば良いのか
前回に引き続き殺菌灯のお話。少々前回の焼き直し感があります。
殺菌灯スゴイです。カビがメリメリ剥げていきます。掃除が楽しい。お風呂がとてもピカピカになって感動しています。ただ、殺菌灯照射後のカビのコロニーから凄まじい臭いがします。。。
防カビ対策にもなるので、これ上手く使えば家事が楽になるのではないかと思います。
まず注意
詳しくは前回書きましたが、肌に照射すると皮膚がんに、眼で見ると失明の危険があります。この点については細心の注意を払ってください。 「気軽にウィルス対策できます」といった感じで売っている商品が見受けられますが、一定の危険を伴うことを忘れずに。
あと、植物にも注意です。植物も火傷を起こします。植物に使うならUV-Aにしましょう。当然ペットにも注意。
殺菌灯の強さ
Amazonなどで売ってる殺菌灯は、2Wとか6Wとか書いていますが、これはどれくらいの威力なのでしょうか。
前回紹介しましたが、GL-20殺菌灯は8Wの強さで、公式の照射強度は1mの距離で77μW/cm2です。2Wだと、単純に4分の1なので19.25μW/cm2となります。
2m | 1m | 50cm | |
---|---|---|---|
8W | 19.25 | 77 | 308 |
6W | 14.31 | 57.25 | 229 |
4W | 9.63 | 38.5 | 154 |
2W | 4.81 | 19.25 | 77 |
※単位はμW/cm2
Amazonで売ってる以下の商品は3Wとはっきり書いています。1mの距離だと約30μW/cm2くらいでしょう。
BRIGHTINWD UV-Cランプ 紫外線除菌器 UVライト 殺菌ライト コンパクト 小型便利 99%細菌消滅 梅雨や雪の日や曇り日に適用
下の商品の場合、5cmくらいで照射強度が2500μW/cm2という曖昧な書き方をしています。距離が50cm以内の場合、強度と距離は反比例の関係になるので、この商品を距離50cmで使用した場合は250μW/cm2(距離10倍)くらいではないかと思いますので、6W相当かな、という感じがします。
マクロス 99.9%除菌 広範囲 ロングバー 除菌ライト マルチクリア 長さ45cm MEH-66
それにしてもこれらのハンディタイプは怖いですね。「下向き時だけ照射するので眼に対して安全」ってなってますが、紫外線は反射・散乱するので、注意した方がいいと思います。少なくとも裸眼での使用は避けた方が良いでしょう。
コロナウイルスを不活化させる時間
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の文献はないのですが、SARSなどのコロナウイルス属に対して、D90(90%不活化)となる時間を計測した文献がありました。
種類や株によってかなりばらつきがあるのですが、大体7~241J/m2、平均67J/m2で90%不活化するようです。67J/m2=6.7mJ/cm2です。同じエンベロープウイルスのインフルエンザが6.6mJ/cm2で99.9%不活化できることを考えると、コロナウイルスの方がややしぶといようです。
で、この数字はなんのこっちゃというところだと思いますが、例えば100μW/cm2を10秒照射すると、100×10=1000μJ/cm2=1mJ/cm2になります。なので、6.7mJ/cm2の場合、100μW/cm2の強さでは67秒照射する必要があります。
もう少し具体的な例を挙げると、4Wの殺菌灯を使って殺菌箱を作り、台と殺菌灯との距離が25cmだとした場合を考えましょう。4Wの50cmでの照射強度は154μW/cm2なので、25cmの場合は308μW/cm2程度と推測されます。コロナウイルスの中で一番耐性が高いD90の数値24.1mJ/cm2の量を照射する場合、24.1÷0.308≒79秒が照射時間となります。ただし、この24.1mJ/cm2は試験管の規準です。
N95マスクの再利用基準では、1J/cm2を推奨しています。308μW/cm2の場合、1000/0.308=3247秒(54分ちょっと)です。
http://jrgoicp.umin.ac.jp/ppewg/n95decon/UVC_N95DECONJVer.1_JP.pdf
前回も書きましたが、紫外線は表面殺菌・空間殺菌は得意ですが、容易に反射・吸収されてしまうので、表面材質に大きく影響されます。けばけばした繊維素材の場合、ウイルスが繊維の中に入り込んでしまうため、思ったほど殺菌効果が得られないでしょう。実力的には79秒の照射で十分なはずなのに、PPEの再利用基準で3247秒まで延びたのは、その辺りが理由と思われます。
また、当然裏側には届きませんので、挟み込んで照射、反射板(アルミホイルとか)の設置やひっくり返すなどの工夫が必要です。
少し気になる文献が
2004年の北大の文献です。SARSに対して、薬剤や高温(56℃), 154μW/cm2の紫外線を照射して、TCID50(ウイルス力価)の数値を観察したようです。
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/10516/1/52%283%29_105-112.pdf
紫外線については、15分で3.8 x 107から180TCID50/mlまでウイルス力価が落ちたようです。オリジナルから0.00047%に減少、つまり99.999%不活化できたと言えると思いますが、そこから60分照射しても、18.8TCID50/mlにしか落ちず、完全に不活化できなかったようです。この18.8TCID50というのは、ウイルスの培養液を18.8倍まで希釈しても、細胞の50%まで感染する力を持っているという意味です。
ちなみに56℃のお湯が結構凄くて、5分で2.6 x 107から40TCID50/ml, 60分で完全に消滅したようです。56℃を60分保つのはなかなか困難ですが、5分でもそれなりに効果があるようなので、お湯で洗濯というのはそれほど悪くない行動だと思います。ちなみに自分はダニ対策と、石鹸洗剤の泡立ちのため、毎回60℃のお湯で洗濯しています。
温度と言えば、もう一つ。これもSARSですが、冷温(4℃以下)の場合、感染価がほとんど落ちないようです。(勝手に増殖する)菌は、冷温下では活動が少なくなり、結果的に増殖が抑えられますが、生き物でないウイルスの場合は、逆に感染力が保存されてしまい、感染防止の側面では悪い方向に働くようです。
http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0780110991.pdf
2020/04/22追記
さらに気になる記事が。60℃ - 60分でもウイルスが生存(?)というニュースです。
新型コロナウイルス、60°Cで 1時間加熱しても生存…夏にも高い感染力が予想(WoW!Korea) - Yahoo!ニュース
元となる論文はBiorxivに掲載されているというので、ちょっと覗いてみました。
Evaluation of heating and chemical protocols for inactivating SARS-CoV-2 | bioRxiv
該当すると思われる部分はここですね。
Only the 92°C-15min protocol was able to inactivate totally the virus (>6 Log10 decrease), whereas the two other protocols resulted in a clear drop of infectivity (5 Log10 reduction) but with remaining infectivity equal or lower than 10 TCID50/ml (Table 4). These results were consistent with previous studies on SARS-CoV and MERS-CoV (11,12). There was no difference between clean or dirty conditions.
かいつまんで説明すると、
- 92℃ - 15分の場合、ウイルスは完全に不活化できた
- 60℃ - 60分, 56℃ - 30分の場合、5log10 (たぶん5桁落ちたという意味)以下にはなったが、10TCID50/mlを下回る程度には感染力が残った
- これらの結果はSARSやMERSでの先行研究と一致した
- これは綺麗な状態と汚染状態(ウシ血清アルブミン追加)とで差はなかった
ということで、同じβコロナウイルス属のSARSやMERSと同等の熱耐性ですよ、ということです。 なので、Yahooに載った記事はちょっと煽り過ぎです。
PPEの再利用
個人防護具(PPE)の再利用に関する資料では、(1)加湿熱、(2)紫外線(UVーC)、(3)過酸化水素蒸気が推奨されていますが、2つ組み合わせるのが基準として良いのではないかと書かれています。
職業感染制御研究会ホームページ・COVID-19・N95/DS2マスク除染と再利用
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.02.20051409v1.full.pdf
本当にガチで殺菌するなら、80℃オーブン30分 + 紫外線照射1時間になります。結構大変ですね。。。一般家庭ならそこまでしなくても良いとは思いますが。
PPEではなく、身の回りの物などの場合、アルコール、次亜塩素酸ナトリウム水溶液などの選択肢も増えます。もう一つ、普通の洗剤(界面活性剤)でもエンベロープ持ちのウイルスに効果がありますので、ジョイを薄めたスプレーというのが割と使い勝手とコストパフォーマンスが良かったりします。消毒は適材適所で考えるのが良いと思います。